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    徳次はすつかり感心したとも、又その反対ともとれる云ひ方だつた。

    ふたたび相手の鞄にちらりと目をやりながら、練吉は半ば信じない風に訊いた。

    ところが、徳次はぽかんとした表情を浮かべたきりだつた。

    遠くの方で誰かが呼んでいた。

    「そんなこと位は造作もない。おれにとつては小指の先の芸当だ」

    富田は房一に声をかけて彼のために席を明けながら、つづけて

    「あの人は来まいて」

    恐らく、房一も他の場合にはこれと似たりよつたりの動作をやるにちがひない、たゞ道平に向ふとこんなに易々とできないのだ。

    「やあ」

    「いや、そこまで確かなことにはしませんでしたが」

    それは杉倉といふ所から来た。塔の山とは反対に、ずつと上手に河原町を出外れて、それから更に急坂を一里ばかり上つた所の、相沢といふ家だつた。相沢と云へばこの近所では誰も知らぬ者はない、そんな不便な土地でありながら大きな酒造家である。使ひの者が来て、急ぎはしないが明日あたりにでも往診してほしい、と云ふことだつた。房一にはそんな相沢みたいな家から往診をたのまれやうとは意外であつた。

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