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「去年はなかつたんですよ。何でも博労ばくらう同士のうちわ揉もめがあつたとかでね」
わたしが若いときに箱根に滞在していると、両隣ともに東京の下町の家族づれで、ほとんど毎日のように色々の物をくれるので、頗すこぶる有難迷惑に感じたことがある。交際好きの人になると、自分の両隣ばかりでなく、他の座敷の客といつの間にか懇意になって、そことも交際しているのがある。温泉場で懇意になったのが縁となって、帰京の後にも交際をつづけ、果はては縁組みをして親類になったなどというのもある。
「小倉組といふと、下の工事場の方ですな」
と、鬼倉は意外に思つたらしい。小首をかしげていたが、
と、鬼倉はすつかり他意のない様子で答へた。
「もうこんなに暗くなつているのにね、何してるんでせう」
「いゝ恰好で!」
それから、房一は歩きながら漠然とした沈思に落ちた。
読経がはじまつた。皆話をやめてその方を向いて坐り直した。
「あら、お帰んなさい。随分早かつたのね。もう済んだんですか」
と後を追ふと、徳次は
その様子が房一に余裕を持たせた。彼は東京の代診時代に覚えた世間慣れた快げな微笑を浮かべることさへできた。
「や、さうですか。僕も今そこから帰るところです」
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