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    それは盛子だつた。きりつとした割烹着の姿は彼女の伸びやかな身体の特長をよく現はしていた。

    「どうでした」

    と、その小柄な身体から出るとはとても思へない、幅のある、濁だみ声で云つた。

    「なんですか、御挨拶まはりですかね、それはどうも御苦労さまですなあ。――まあ、お上り下さい」

    そのとき、横の襖が開いて、三十近い年の、髷なしの束髪に結つた女が茶を持つて入つて来た。色の白いわりに顎の張つたその顔は、気の強さと或る物悲しさとが入りまじつたやゝ冷い表情をしていた。正文は息子の嫁だと云つて引合せた。房一はそれで急に練吉のことを思ひ出して、お目にかゝりたいと云つた。

    「さうさう、先だつてはお加減がわるかつたさうですが――」

    入るなり、

    盛子は上から見、下から見しながら、

    「いゝよ、君。帰りたまへ、その方がいゝんだから」

    半シャツの男は房一の前に来て、はじめてお辞儀らしい格好をした。

    「もう着てみましたか」

    「徳さんが、――今、そこに、おかみさんが来てるんですわ」

    房一は笑つていた。

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