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「いや、わしは出んぞ」と叫んだ。
「さうですか、さうですか。それは、いや、ごていねいなことで」
「あん」
「あいつももう仕かたがないのですよ。『青ペン』通いばかりしているのですから。」
「さうだね。まさか医者の家に古障子の玄関といふわけにもいくまいね」
この「芋の子」は小学校を卒業するとすぐ畑へ追ひやられる筈であつたが、成績がよかつたのと彼の願ひによつて高等科に上ることになつた。その二年の間に彼は身体も心もめつきりと成長した。年齢の若さから来る皮膚の艶や筋肉の柔かさは争へなかつたが、骨格は骨太でがつちりしていた。彼の粗暴さが今はすつかり姿を消して反対に或る素直で従順な所が出て来ていたので、彼の骨格の逞ましさが何となく滑稽な愛嬌のあるものにさへ見えた。しかし彼の額には年に似合はない一本の深い皺が出来ていた。それは時々非常に深く黒く見えることがあつた。それを見ると、人は彼の中に案外な考へ深さのあるのを認めて驚くのであつた。
「ほう、この家鴨あひるの嘴みたやうな金具は、こりや何かな。ほう、こりやよく光る小刀だな。こんなに何本も何に使ふのかな」
「途中から帰つて来たんだよ」
「どうしたんですの?何かあつたんですか」
御大典とそれにつゞく奉祝日は瞬またゝくまに過ぎ去つた。
「いや、そんなこたあ、――そんなこたあしませんよ」
「をかしいからとは何ごとだ。火事だといふから手伝ひに来たんぢやないか、そして溝に落ちたのが何がをかしいんだ」
房一は急いで膿盆をひきよせた。
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