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「居なくたつて訴訟はいくらでもできらあね」
後で馬がいないと云ふので騒ぎだつた。
房一は笑つていた。
練吉は時々、「うむ、うむ」と呟き、房一の方をふりかへつては「ね?」と、同意を求めるやうに云つていた。
膿盆だの鋏、脱脂綿の袋などがまだ散らかつたまゝになつているのを片づけはじめた。
今泉はかすかに鼻のあたりを不満げにふくらませた。
「どうでせう。いつそあの障子も脇戸もとり払つて、曇り硝子に高間医院といふ字を抜きましてね、厚い二枚戸でも入れたら――」
「わたし、あれらしいのよ」
房一が云ひかけると
口を切つたものの房一は頭の中でとまどつていた。あんなに考へていた言葉が今急にどこかへ消えてしまひ、何を云ひ出したのか後をどう云つたものか判らなくなつてしまひさうに感じた。彼はかすかに汗ばみ、そのどちらかと云へば醜いむくれ上つた眉肉や厚い唇が力味を帯び紅ばんで来た。
「え、何だつて、徒歩てくで通るかつて?」
根津はだまって答えなかった。その翌日、彼は城外で戦死した。
男は眼を閉ぢた。何も答へなかつた。
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