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間もなく相沢に案内されて、房一は病室へ通つた。外で見るよりはよほど広い家と見えて、廊下を何度か曲つた末に暗い突きあたりの襖が相沢の手で開かれて、房一がそこに踏みこんだとき、庭の向ふに立つ白壁の方から反射する逆光線の中で、かなりに広い部屋のまん中には床が敷きつ放しにされ、その上にごろ寝したまゝ雑誌を読んでいた息子の市造が、足音で気づいたのだらう、半ば起きかけて、入つて来る者をぢつと眺めているのを見た。
房一の竿に最初のやつが掛つた。
「あれですかね、やつぱり自分で歩かなくちやいけませんかね」
「さうだつてねえ」
「いや別に忙しいこともありませんですよ」
と、練吉は房一の方をふりむいた。
「いや、――わしはそんなこたあ嫌ひだ」
かういふ彼であつたが、河原町の人々は彼に対して一種の親味と同時に、河場者、他所者といふ一瞥を決して忘れなかつた。彼の席順はやはり低かつた。それでも彼は一度も不満の色を浮べなかつた。
と、横合から老父の道平が房一に寄り添つて来た。
房一はその晩留置されることを覚悟していたが、幸ひに取調べは簡単に済んで、夜ふけになつて神原喜作と共に自動車で帰つて来た。この二人が本署まで同行させられたことはあらゆる方面に同情をひき起した。そして翌日になると、出張所の側でも遺憾の意を表し事件は落着した。
練吉は永い間黙つていた。それから、いかにもいやいやな調子で、
膿盆だの鋏、脱脂綿の袋などがまだ散らかつたまゝになつているのを片づけはじめた。
「金色夜叉」はやはり小説であると、わたしは思った。
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