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    房一が云ひかけると

    と、舌ざはりの悪いものでも口にしたやうな調子で、練吉はぽつんと云つた。

    何となく身体が倦だるかつた。それにちがひはない、今日は珍しく朝早くから川につききりで、おまけに呼びもどされるとすぐ今の騒ぎだつた。埃で黄くなつた頭髪、泥と血の塊り、男の不安げな眼、それからあのいくらか仁義を切るやうな半シャツの甥の身構へだの、それらがもう一度頭の中に蘇よみがへり、一列になつて通つて行つた。

    房一は満足げに、かへつて来た犬の頭をかるくたゝいた。

    後で馬がいないと云ふので騒ぎだつた。

    徳次は自分のことのやうに熱心に路順を考へた。

    かういふことになると、彼の話振りには一種の無邪気さが現れて釆る。

    「袴はそこですよ。足袋を先きにはくのよ」

    「ジョン、降りろ」

    「何んの。面倒だからこのまゝ行かう」

    と、微笑しながら頭を下げた。

    「さあ、どうぞ。ずつとお通り下さい」

    「――へえ、まだお帰りぢやないのかね」

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