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「あれらしいのよ」
「どうも遅くなりまして――」
その時、彼等は近くに坐つている房一に気づいた。話に出ている鍵屋の分家とは、まさに房一の借りている家のことだつたし、その所有者は神原喜作にちがひなかつたから。
突然、練吉の顔には一種の生気が、何となくもう一人の練吉といつた風なものを思はせる疳の気配、子供染みた我儘さが顔にさし、あのひつきりのない目瞬またゝきが止んで、切れの長い目が眼鏡の奥でぢつと線を引いた。
「おーい、火事はどこい行つたあ」こんな風に、口々に喚いていた。
道中は別に変ったこともなく、根津の主従は箱根の湯本、塔の沢を通り過ぎて、山の中のある温泉宿に草鞋わらじをぬいだ。その宿の名はわかっているが、今も引きつづいて立派に営業を継続しているから、ここには秘しておく。
「あの人はつまりこんな風な人なんだわ。こんな風に――」
「知吉さんはこれまで散々踏みつけられて来たんだから、自分が戸主になつてみるとこれまでの腹いせといふ気もあるんでせうな」
「はあ!さう――ですね」
私にとっては、三十八度から四十度ぐらいが最も快適な入浴であることを確認したが、冬は湯上りの寒さに抗する必要があるので、多少汗ばむのを我慢して、四十一二度の温泉の湯につかる。伊東市でこれ以上チッポケな湯殿はなかろうと思われるぐらい、洗い場もないほどのところだが、私にはこれ以上の広さも必要ではない。ただ釜たきをする人たちが気の毒であった。
「早く早くつたつて、もうお支度はちやんとできてますわ。あなたが遅くかへつて来といて――」
「どうも御苦労さま、暑いところを」
盛子は急に思ひ出して不服さうな声を出した。だが、それは房一に向つて甘えながら不服を云つているやうな調子を含んでいた。
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