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黒光りのする戸棚の蔭からびつくりしたやうな義母の円つこい眼がのぞくと、
「大きに。ありがたうござんす。よろしう頼んます」
「すみましたよ。さあ。何でもありませんなあ。ぢき起きられますよ。ごく軽いんですからね」
「まあ、いゝでせう。せつかくぢやありませんか」――
「いや別に忙しいこともありませんですよ」
房一はにやりとした。水神淵と云へばこゝらで一番のギギウの棲家だつた。彼等はよく出かけたものだつた。岩の上に腹ばひになつて巣の前に糸を垂らす。すると、水底では今針から落したばかりの奴が懲りもせずに餌に食ひつく、水気で腹の下の岩は生暖いが背中は日でぢりぢりして来る。急に水にとびこんで身体を冷やす、それから又足を逆さに今にも落ちこみさうな恰好で岩の上に腹ばひになる。――
「ほう、ほんに!みんなある」
房一は目を上げて何か訊きたさうにした。それを押へるやうに、
だが、さう云へば、一歩いちぶ非の打ちやうのない正文に練吉のやうな息子ができたこともふしぎにちがひない。事実、当人の練吉さへ、自嘲めいて時々さう口にするのであつた。
「いや、いや」
「はア」
徳次は自分のことのやうに熱心に路順を考へた。
「それで、近く片づきさうなんですか」
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