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練吉は永い間黙つていた。それから、いかにもいやいやな調子で、
「あの、さきほど往診に出かけましたさうで」
「なに、訴訟?」
と、ふしぎに叮寧な言葉使ひになりながら、鼻汁と埃とがごつちやになつて真黒になつた子供の方にしやがみこんで、家の方へ向きを変へてやる。
――「それでは、わしの方からお礼を云はなきあならんのです。どうぞ、よろしく願ひますわ」
房一はどこか鹿爪らしい恭順な面持で、控目にじつくり身体を押へるやうにして上るとうしろ向きになつた猫背の老医師の肩がひよいひよいとまるで爪さきで歩いているやうに彼を奥の方へ導いて行つた。
小谷は相手にされなかつたやうに感じてちよつと顔をしかめた。が、しばらくすると又声をかけた。
「何を云うとる。すまじきものは宮仕へ、といふぢやないか」
彼はもう少しで最も善い友人に向ふやうに考へごとを打ち明けるところだつた。
「やっぱり半之丞の子だったですな。瓜うり二つと言っても好よかったですから。」
房一は男の前膝部をたゝいた。脚気でもない。心臓は弱つていた。単音でなく、微弱な重音があるので弁膜症の気味があるとも診られた。呼吸器に異状はなかつた。一応の診察を終ると、房一は患者の顔から、胴体にかけて、熱心に眺めた。皮膚は弛緩して、生気がなかつた。だが、その極端な貧血と一般的な衰弱とは典型的な寄生虫の症状らしいことにさつきから気づいていた。
「どうも、やつぱりねえ。調子が悪い」
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