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    「訴訟があるさうで、面倒なことですな」

    「ねえ、高間さん。どうもこの追鮎は背中に掛り傷があるんで元気がないですよ」

    「ふうむ」

    「ふうむ。いや、よからう」

    徳次と今泉とはふだん滅多に顔を合はさなかつた。と云ふのは、徳次は河商売で、今泉は彼がいつも口にするやうに「役所」づとめだつたからである。今泉は二軒置いた隣りに住んでいた。徳次の家は汚かつたが自分の家だつた。今泉のは借家で、ぐつと小さい家だつたが、小綺麗に住んでいた。徳次は何となくそれが気に入らなかつた。その上、今泉のいつも剃り立てみたいに青々した四角な顎だの、鋏でつまみ立てたやうな鼻髭だのを一分とは永く見ていられなかつた。何だか胸がむづむづして来るのである。だから、たまに行き会ふと、徳次は

    房一のまはりには三人の男が立ちかこんで、黙つて治療の様子を見まもつていた。背中をむき出しにして横向きに寝た男は、傷を洗はれるときに呻うめいた。血の気の引いたその顔にはどす黒い蒼白さが現れた。

    と、彼は恐しく手まどつて答へた。

    と、房一は訊いた。

    と、いきなり突きを喰はされた練吉は、神経的にさつと青ざめながら、反問した。

    「何を云うとる。すまじきものは宮仕へ、といふぢやないか」

    「よろしい。承知した」

    房一の魚籠びくをのぞいて、盛子はびつくりしたやうに叫んだ。

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